RESEARCH:研究内容
運動療法効果を高めるためのニューロモジュレーション
運動療法には運動学習を目的とするものや、有酸素運動に代表される全身機能のコンディショニングに関わるものがあります。特に脳卒中をはじめとする中枢神経系疾患の機能回復訓練では前者の運動学習に基づく神経筋再教育が図られますが、その運動療法効果をより増強するためのニューロモジュレーションについて研究を進めています。運動療法に対する経頭蓋磁気刺激や経頭蓋直流電気刺激の併用は皮質神経活動を高め、活動依存的な神経細胞の可塑性を促すことを目的に臨床応用されています。同様の神経活動の制御として、興奮毒性を示さない極めて軽度の皮質抑制性入力の低減は神経細胞の保護、分化、可塑性を促進する脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現を増強し、更に有酸素運動との相互作用により皮質運動関連領野における BDNF蛋白発現を顕著に増強することが、私たちの基礎研究を通して分かってきました。この知見は運動機能再学習を目的とする運動療法に対する中枢性コンディショニングとしてニューロモジュレーションの有効性が期待されます。
高齢者のヘルスプロモーション
超高齢化社会を迎えた今日、高齢者のヘルスプロモーションに貢献することを目標に、神経科学的な基礎研究を展開しています。日々の運動は運動機能のみならず、認知症をはじめとする退行変性疾患の「予防」に貢献することが注目されています。本研究室ではこの運動のもつ予防の力について、その根拠となる神経科学的な知見に関する基礎研究を進めています。特に中枢神経系における退行変性予防の根拠として、海馬をはじめとする脳内において、脳由来神経栄養因子等の神経保護に作用する物質が運動により発現増強される機構と、それに伴う神経細胞シナプスの機能修飾、そのアウトカムとしての運動機能や行動の変容について、老齢モデル動物を用いた基礎実験を行っています。予防的運動療法の背景となる神経科学的機構について一つ一つ解明していくことが研究テーマです。
運動とエピジェネティクス制御
私たちの老化促進モデルマウスを用いた研究において、運動習慣は記憶の中枢である海馬におけるBDNFや主要なシナプス受容体の発現を増強し、実際に記憶・学習機能が改善されることが確認されています。また、運動による直接的な神経活動の増強が期待されない海馬において、どうして運動依存的な発現増強が生じるのかという疑問について、DNAの塩基配列変化によらない遺伝子発現を制御するシステムであるエピジェネティクス制御に着目すると、非特異的にDNAのヒストンを修飾し遺伝子発現を増強させる酵素(ヒストンアセチル基転移酵素:HAT)の活性が運動依存的に増強されることが分かってきました。しかし、リハビリテーション分野において運動とエピジェネティクス制御の関連を示した報告はまだ少なく、更なるエビデンスを構築していくことが今後の課題です。
研究費取得状況
研究代表者:前島 洋
2023年-2026年 科学研究費補助金:基盤研究(B)
薬理的神経制御が支える新たな脳卒中再生リハビリテーションの探求
2021-2023年度 科学研究費補助金 :挑戦的研究(萌芽)
エピジェネティクスが支える脳卒中再生リハビリテーションの探求
2020-2023年度 科学研究費補助金 :基盤研究(B)
薬理的神経制御を用いた新たな脳卒中運動療法の開発に対する生体脳イメージングの応用
2018-2020年度 科学研究費補助金 :挑戦的研究(萌芽)
2017-2020年度 科学研究費補助金 :基盤研究(B)
脳卒中リハビリテーションにおける薬理的シナプス伝達制御を伴う新たな運動療法の開発
2015-2017年度 科学研究費補助金 :挑戦的萌芽研究